廃棄物の収集運搬業に「青ナンバー」は必要なのか――。この問題は過去に幾度も浮かびは沈み、沈んでは浮かびを繰り返してきた。しかし03年3月、国土交通省が廃棄物処理業者の青ナンバー取得義務化に動いた。全国清掃事業連合会ならびに全国産業廃棄物連合会に対して青ナンバー取得義務付けの申し入れを行ったのだ。国土交通省は積年の課題であるこの問題に一気にケリをつけようというのか。さらに04年には山形県のある市で、市から家庭ごみの収集運搬を委託されている業者が貨物自動車法に抵触するとの理由で山形地裁に書類送検された。ここから青ナンバー問題は俄然、クローズアップされることになる。青ナンバー取得が適用されると収集運搬業者の廃業が相次ぐことは明らかだ。一連の経過と処理業界の対応を取り上げてみる。
繰り返される青ナンバー問題
この問題を簡単に遡って整理してみる。1977年(昭和52年)9月8日、東京都陸運局は自動車第二部長名で埼玉県陸運事務所長宛に文書を出した。産廃収集運搬業者は一般貨物自動車運送事業法の許可(要するに青ナンバー)を取得するようにという内容。どうやらこの辺がこの問題の端緒のようだ。しかし1991年(平成3年)の廃棄物処理法改正により、収集運搬と処分業の区分が明確になったことから、東京都陸運局は1993年(平成9年)6月4日、1977年に出した判断を廃止。新たな基準として『自ら処理施設を有していない場合は、貨物運送事業の許可が必要』との事務連絡を、管内陸運支局貨物課宛に出した。
追い討ちをかけるように94年(平成10年)3月25日には国交省自動車交通局貨物課が関東陸運局に事務連絡を出した。その内容を噛み砕くと、『廃棄物の運送については、各地方運輸局において青ナンバーの許可の必要性の取り扱いが統一されていない』『収集・運搬行為のみを行なう場合は、自動車運送事業に該当することを統一して判断基準とする』というもの。00年(平成12年)3月には、この内容と同じものを中部陸運局や石川県環境安全部環境整備課、さらに岐阜県環境部廃棄物対策課などをはじめとする自治体が、各県の産廃協会に向けて発信した。こうして青ナンバー問題は燎原の火のごとく広がっていった。
国交省の申し入れに処理業界団体が激しく反発
03年3月に国交省は廃棄物処理業界団体に青ナンバー取得の申し入れを行なった。が、その少し前に国交省は環境省に声をかけている。収集運搬業者に青ナンバー取得を徹底したいという趣旨のことを述べたという。これに対して環境省は青ナンバーが必要か否か明言していない。ただ処理業者の意見を聞くべき、という意味合いのことを国交省に伝えたという。
国交省が処理業界に申し入れ、説明した内容はこのようなものだった。青ナンバー取得義務付けの理由として、これまで営業区域は各運輸支局の管轄区域を単位としていたが、規制緩和によりこれを撤廃、ひとつの運輸局で青ナンバーの許可を取得すれば、全国で営業を展開してもよいことになった。となると、統一基準がないとまずいことになる。しかし廃棄物に対する収集運搬の対応がまちまちなので、収集運搬業者にも青ナンバーの許可取得を適用したい――。
これに対して廃棄物処理団体側は理事会などを招集し検討、反対の姿勢を鮮明に打ち出す。反対の主な理由をまとめると次のようになる。①青ナンバー取得義務付けは、廃棄物処理法との二重規制(二重取得)になる。②これまで問題や不都合はなかったのに、いまになって青ナンバーの取得を義務付ける根拠・理由が不明。③廃棄物処理法の規制のほうが厳しく、あえて青ナンバーを取得する必要はない。④不要物である廃棄物は、有価と考えられる「貨物」には該当しないので、廃棄物収集運搬業者が青ナンバーを取得する必要はない。⑤環境省から「廃棄物の運搬は廃掃法の範囲で運用されており、その車両を事業用車両(青ナンバー登録)として許可されることを要件とはしない」との見解が示されている。⑥法律の一本化、又は環境省と国交省等との関係機関が調整を行なうべき。
国交省が一廃・産廃業者に青ナンバーのアンケート調査実施
国交省と廃棄物処理団体との間で協議が続く中、あろうことか国交省は03年12月末、一廃・産廃処理業者を対象に青ナンバーに関するアンケート調査を実施したのだ。一廃は人口3万人以上の約688区市町村の一廃担当者に対して、産廃は13の都道府県に対して行なった。
アンケートの中で特にひっかかるのは次のような「誘導尋問」とも言うべき設問だ。『一般廃棄物を有償で収集運搬する場合は、処理施設を自社で有していない場合は青ナンバーが必要で、このことは知っていましたか』。あたかも青ナンバーを取得させるように指導している内容だ。こうしたことを含めて一廃の設問は12ある。また産廃については収集運搬料金についてまで訊ねている。ちなみに、この調査結果は04年12月に発表されている。
こうした最中、山形県の2つの市で一般廃棄物の収集運搬をめぐり青ナンバー問題が勃発した。
山形県・上山市で一廃委託業者が書類送検に
上山市では、ある運送会社が、市から家庭ごみの収集運搬業務を委託されていた一般廃棄物処理業者5社(いずれも白ナンバー)を、「白ナンバーで収集運搬業を行なっているのは貨物自動車法に抵触する」との理由で上山署に告発。上山署もこれを受理し、04年2月上旬に山形地裁に書類送検した。周辺から集めた情報によると、告発したこの運送会社は、以前より上山市に対して一般廃棄物収集運搬事業に参入させてもらいたいとアプローチをしていたが、不調に終わったらしい。そのために告発したのではないかとする見方が取られているようだ。上山市市民生活課では「廃棄物処理法での委託基準に基づいて契約しているので、違法とは思っていない。また、市のほうから業者に対して青ナンバーを取得するような指導は考えていない」とコメントしている。
また、同じ時期、新庄市でもトラック協会が新庄市長に対して「一般廃棄物の収集運搬を白ナンバーで行なうのはトラック法違反ではないか」「市は随契で行なうのではなく、競争入札を導入せよ」とする内容の公開質問状を提出している。一般廃棄物の収集運搬に進出したいというトラック協会の強い意思の表れと受け止めることができる。
山形地検が公訴取下げ。今後の判断基準になりそう。
山形地方検察局は、山形県上山署が白ナンバー営業による貨物自動車運送事業法違反で書類送検した事件で、04年11月に不起訴にする方針を固め、12月14日付で書類送検した事業者らに対し公訴取下げの旨を文書で伝えた。上山市の事件は青ナンバー問題についての判断を示すだけに、多くの関係者がその帰趨を注目していた。山形地検の下したこの判断が、今後の青ナンバー問題に関しての基準になりそうだ。
公訴取下げの理由についてはつまびらかにされていないが、青ナンバーの適用を主張する国交省と、廃棄物処理法ではナンバーは委託の要件にあたらないとする環境省との間で見解が分かれているため、書類送検されても処分は難しいといわれている。
また全清連は国交省との会談の中で『なぜ昭和26年に貨物運送法が制定されて以来、53年間も白ナンバーでの収集運搬を”容認”してきたのか。半世紀にもわたって容認してきたのはすでに「合意」しているとみなすのが一般的』と指摘しており、こうした歴史的事実もこの場合、公訴取り下げの理由になったものと思われる。
火種はまだくすぶっている。
山形県山上市での事案は山形地検が公訴取下げということで一応の決着をみた。しかし国交省はアンケート調査をして終わりではない。それならアンケート調査をした意味がない。それをいつ、どういう形で生かしていくのか。現に国交省の関係者からは「廃棄物処理業者だけが(青ナンバーを取得しなくても)よい、というわけにはいかない」との声が聞かれる。またトラック協会もこの業界への参入を虎視眈々と狙っている。青ナンバー問題の火種は、まだくすぶっているとみるべきだろう。