欠格要件の強化
問題提起
problem

欠格要件の強化

平成15年の廃棄物処理法改正により欠格要件が大幅に強化された。しかしその中身がどのようなものかについて処理業界側はまったく捉えていなかった。というよりは気づかなかった。強化された箇所はいくつかある。許可にかかわる業務とは無関係の、例えば交通事故等による欠格行為についても許可取消しの要件となる。なかでも強化の最大のポイントは、いわゆる「ドミノ倒し」と呼ばれるもので、許可を取り消された法人の役員等が、他の法人の取締役等を兼務している場合、他の法人の許可をも無条件かつ連鎖的に取り消すというものだ。この適用により許可取消しが無限の広がりを帯びる。つまり「無限連鎖取消し」に至る。このため環境省では内部に学識経験者からなる「欠格要件のあり方検討会」を設置。非公開で議論を開始した。

役員の飲酒運転で許可取消しに

欠格要件が大幅に強化されたことに処理業者が気づいたのは、ある業者が許可取消しになったことに端を発する。関東圏に本社をもつこの業者は、下水道の維持管理や補修、側溝の清掃などを主な業として30数年、無事に営んできた。従業員やその家族などを含めると約100人という規模だ。事業によって発生する「汚泥」などを処理する必要性から、産廃の収集運搬の許可、ならびに特管産廃の収集運搬の許可を取得しており、許可は7県市にまたがっている。

特管産廃の許可更新の期日が近づいてきたため、この会社はA県に更新申請を提出した。ところが、更新は許可しない旨の不許可の決裁書が手渡された。不許可の理由は、取締役のひとりであるBが以前、飲酒運転による道交法違反で「懲役5月、執行猶予3年」の判決が宣告され、確定後5年が経過していないというものであった。Bに聞いたところ「会社の仕事を終えた後、友人と懇談して飲酒運転をしたことにより、道交法違反で処罰を受けた」とのことだった。この後、県から「処分命令書の交付」の書類が届く。A県の許可取消しを受けて、この会社が許可をもつ周辺県も次々とA県に「右にならえ」という形で許可取消しを行なった。一役員の、それも業とは全く関係ない、プライベートでの出来事が会社の許可取消しにつながる――。廃棄物処理法の15年改正では、都道府県知事は「許可を取り消さなければならない」と大幅強化され、許可取消しが「義務」とされたのだ。

名前だけの役員でも欠格の適用対象

廃棄物処理法改正による欠格要件および許可取消しの条文構成は非常に複雑で、かつ分かりにくい。これがために廃棄物処理業者は、これがどういうものか内容が理解できず、実際には許可取消しになった業者が現出してから「大慌て」ということになったわけだが、条文構成を簡略化すると以下のようになる。詳しくは条文を取り寄せ参照していただきたい。

欠格要件及び許可取消しの条文構成

1.第14条の3の2(許可の取消し)
 都道府県知事は、収集運搬業者または処分業者が以下(欠格要件)に該当するときは、その許可を取り消さなければならない。
 「第14条第5項第2号イからへ」までのいずれかに該当するに至ったとき。

2. 第14条第5項第2号イからへ
 イ 「第7条第5項第4号イからト」までのいずれかに該当する者
 (以下ロ~ヘは省略)

3. 第7条第5項第4号イからト
 (以下イ~ハは省略)

ニ 許可を取り消された日から5年を経過しない者。法人の場合は、聴聞通知のあった日(または取消しの日)の前60日以内に役員であった者で、その取消しの日から5年を経過しない者を含む。
ホ 上記ニで、当該法人が一定の期間内に廃業の届出をした場合に、聴聞通知のあった日(または取消しの日)の前60日以内に当該法人の役員であった者で、その取消しの日から5年を経過しない者
(以下ヘ~トは省略)
上記の「役員」とは具体的にどこまでの範囲をいうのか。環境省が出した「行政処分の指針」を要約すると、『法人の業務を執行する権限はないものの、法人に対する実質的な支配力を有する者』となっており、『例えば、①相談役、顧問等の名称を有する者、②一定比率以上の株式を保有する株主、③一定比率以上の出資をしている者、④法人に対し、多額の貸し金を有することに乗じて法人の経営に介入している者』としており、『したがって「支配力を有するものと認められる者」については、経営方針を単独の意思で決定し得るような強力な権限を有する者であるとこまでは要しない』としている。
要するに実質的に会社の経営にかかわっておらず、名前だけの役員であっても欠格に該当すれば会社が許可取消しになってしまうということだ。

恐怖の無限連鎖許可取消し(ドミノ倒し)

規制強化による許可取消しで、最大の問題点が「無限連鎖取消し」、いわゆる「ドミノ倒し」と呼ばれるものだ。下の図を使って説明したい。

A社の取締役「甲」という者がいたとする。この甲が欠格行為を犯したとする。取締役である甲が欠格となったためA社は法人の許可を取り消されることになる。
ところがA社には甲を含めて、取締役や監査役、さらに出資者など5名がいる。法人であるA社が許可取消しとなったため、これらの5名はすべて欠格要件が適用されてしまう。しかもこの5名は、ほかの会社(法人)B~Fの役員も兼務している。するとB~Fの会社も許可取消しとなってしまうのだ。
さらにB~Fにいる役員等が、ほかの法人の役員を兼務していたら、さらにその法人の許可取消しにつながってくる。
こうして次々と際限がない許可取消しの連鎖が続く。まるで「ねずみ算」のように増えていく。まさに「屍が累々と積み重なる」ことになる。

環境省が内部で検討会、無限連鎖を見直し

このため環境省は欠格要件の見直しを視野に、内部に学識経験者・弁護士など6名からなる「欠格要件のあり方検討会」を平成17年6月に設置、非公開で検討をはじめた。19年3月までに計10回の会合を開き、その間には経団連・全国産廃連合会・自治体などのヒアリングを行い意見や要望などを吸い上げた。そして19年4月に「報告書」をまとめた。
それによると無限連鎖取り消しは『優良な産業廃棄物処理業者までも許可を取り消される結果となり、社会的公正の観点から不適正な事例を招来しないよう、早急に許可取消しの無限連鎖を断ち切るための必要な措置を講ずるよう検討すべきである』としている。ただし業界団体から要望がある「欠格要件の義務的取消し」の見直しについては、『効果を検証する段階に至っていない』としている。つまり「連鎖取消し」は見直すものの、そのほかについては現行体系を維持するというものだ。

これを受けて環境省は4月9日付で「欠格要件におけるいわゆる無限連鎖について」との表題で、各都道府県に通知を出した。通知は「無限連鎖」に歯止めをかけるようにとの内容だ。この部分を要約すると連鎖は2つまでで、3番目には波及しないよう措置が必要としている。

欠格要件の運用には課題も多いため、検討会は引き続き継続していくことになっている。